2006年10月 9日

女大学 「七去」 続き

さて、女大学では先ほどの七つを離縁の理由にしているわけだが、
民法親族編第812条で夫婦の一方は次の理由に限り離婚を訴えることができると書いている。

一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ

二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ
三 夫カ姦淫罪に因リテ刑ニ処セラレタルトキ
四 配偶者カ偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物ニ関スル罪若クハ刑法第百七十五条第二百六十条ニ掲ケタル罪ニ因リテ軽罪以上ノ刑ニ処セラレ又ハ其他ノ罪ニ因リテ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ
七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ
八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ
九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ
十 婿養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ

なので、今日我々が守るべき法律において離婚できるのはこの十か条に限られ、それ以外はどういう場合でも双方の合意がなければ離婚はできない。「みくだり半」なんてのは昔の物語で、今じゃ別世界のことだと思っておくべき。ああ、ただ、「七去」第一項、舅姑に順ならざるを・・・を、尊属の虐待、侮辱ととればこれは生きてるかもしれない。それ以外は民法に該当するものはないに等しい。
法律にない離縁ルールを世に広めると勘違いがおこる恐れがある。例えば、国民が勝手に人の罪を判断して復讐するのは法律で禁止されている。ここで今新たに、「盗賊や乱暴者を取り押さえたら、殴る斬るなどで思う存分懲らしめていい。さらにそれが親の仇だったらそれは絶対許せない敵なんだから、政府なんて頼るまでもない、親孝行として討ち取ってしまえ。曽我の五郎十郎を見習え、彼らこそが手本」なんて書いて出版したら発売禁止になったりするかもしれない。なぜなら、今の法律に反するから。小説とかフィクションとしてならまあいいかもしれないけど、家庭用教育書、学校の教科書なんかにしたら絶対反発を食らうはず。
そうすると、この女大学は小説なんかじゃなく、女子教育の聖典として地方によっては未だに崇拝されてるようだが、明らかに法律に反しているものが多い。こんなもんが巷に浸透したら人を誤解させて法に背いた罪人にしてしまうかもしれない。教育家はもちろん、政府でも注意して欲しいもんだ。

(福沢諭吉 「女大学評論」(講談社学術文庫)より こまちゃ 訳)


以前書いた、「万札様の欲しかった本」をやっとこさ入手したので一部を紹介してみますた。
うう、明治擬古文なんて十何年ぶりに訳したよ・・・一部訳し間違いやいい加減なところもほぼ確実にありそうですが、興味のある方は各自原文をご確認下さい(といってもなかなか本屋にはないので、該当箇所を問い合わせていただければ原文をお答えするです)
なんつー口調で訳すんだ、と思われたかもしれないけど、本当にこれくらいの勢いで書いているので
(ちなみに、「小一時間問い詰めたい」の原文は「我輩は屹と其理由を聞かんと欲する者なり」)
訳そうとせず、がんがん読んでいくぶんには大変リズムよく爽快痛快。


まあ、時代が時代だけに古いなーと反発する部分もありますが、百年経った今でもこれを読んで出直せ!と言いたくなる人が多いのはどういうことよ。
というか、百年前にここまで言える人がこんな著名人にいたんだなーということかもしれない。
当時、この本は結構人気だったそうですよ。

ところで万札様。これだけ女大学を手厳しく糾弾するあなたが、
「女は優美でなければいけない」と決め付けたスタンスで「新女大学」を書くのはいかがなものか
と思います。
いや、言ってることの是非じゃなくて、ちゃんとそう思うことの理由を説明するべきじゃないですか。

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コメント

原文は青空文庫にあるよ。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000296/card43029.html

おをう!どうもありがとうございます。
全然こういうサイトの存在知らなかったです・・・
って、より多くの人が訳の間違いやいい加減さに気づくわけですね・・・ハズカシイ。

……レス先越されてしまった。
前回の記事へのレスはこまちゃちゃんとともに、万札様へのレスでもありまつた。
万札様って儒学や儒学者を古いとか頭固いとか否定して自論がいかに素晴らしいかを披露するために無理無理こういう教材を持ち出してきているように思えてなあ。

ありゃ、じゃあ前のコメント時に万札様の文章だってバレてましたか。
無理矢理かなあ。
今でも女大学的思考をふりかざす人がいることを考えると、当時は本当にセンセーショナルだったんじゃないかと思うんだけど。
そこに潜む万札様の自己満足の有無は別問題かと。
(自分の妻の扱いがひどかったら怒るけどどうなん?)

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